【Q】前後のサスペンションのセッティング について
 井上@宇都宮


 昨年よりトライアルの世界にはまった初心者です。最近バイクのメカニックも大変興味があり、この掲示板で勉強させて頂いています。メカに詳しくない自分にとっては、まさに’目からうろこの黒山一郎メカニックバイブル’がまさにこのHPそのもので、いつも新鮮な発見とともに拝見させて頂いています。

 ところで、先日おそらくNAかIBではないかとおもう方がフロントホップやウィリーホップ、ステア越えなどをされているのを見ましたが、まるで軽やかにトランポリンの上で跳ねているような印象がありました。歴然とした技術の差なのですが、憧れと同時に彼等はサスペンションをどうやって調整しているのか気になりました。

 自分は'01COTAに乗っていますが、セッテイングをどういう目安で変えて良いものかわからず、出荷時のまま乗っています。例えば、出荷時のまま乗るのが初心者にはとりあえず、一番良いのか?或いは、調整するには一番緩めた状態から少しずつ固くしていくのが良いのか、前と後ろのどちらを先に調整するのか、調整の具合はステアなどを越えた具合で判断するのか、等の疑問があります。セッテイングは技術レベルや好みで変わるものだとは思うのですが、もし前後のサスペンションのセッティングの目安となる原則があれば、教えて下さい。宜しくお願いします

【A】まずはノーマルセッティングを体で覚えるべし

 イタリアを拠点とし'90年代前半に世界選手権に挑戦していた「飛びの小徹(こてつ)」こと小谷徹さんの率いるBetaチームアズーローに、千種(ちぐさ)君28歳というのがいます。この千種君、昨年の国際B級近畿選手権チャンピオンになりまして、国際A級昇格の権利を得ました。でも、惜しくも全日本の方ではポイントがわずかに及ばず国際A級昇格はなりませんでした。で、千種君は「全日本で正々堂々と昇格するのが男道」と国際A級特別昇格の申請をせず、今年の全日本に青春のすべてをかけて冬場の走り込みに日々をついやしています。
 
 千種君の仕事は「千種モータース」というお父さんのやる自動車修理工場で働くメカニックです。まあ二代目というわけ。当然、千種君は2級整備士免許を持っておりましてメカの腕前も相当なもの。でも、千種君の自分自身が乗る愛車BETA/REV-3に対する考え方は以下の通りです。

<修理や整備はきちんとやるけど、前後サスペンション/エンジンを含めてすべてはスタンダードのセッティングのまま乗る>

親分の徹さんは「もう少しセッティングをいじった方が乗りやすくなる」とはアドバイスしますが

<それを始めるとセッティングの出し方の分かっている人ならいいけど、これでいいのか?これでいいのか?と悩み始め、悩みながら乗るよりも、いいかどうか分からないけどとにかくスタンダードのセッティングに慣れる>

の考えです。私はこの千種君の考え方に<あるレベルまで>のライダーには賛成です。

トライアルやっていて、乗ることもそうだけどマシンをア〜ヤコ〜ヤいじり回すのが好きな人はレベルがどうあれ、マシンいじりはそれはそれで構いません。でも、上を目指している人はセッティングよりも

 ・ハンドルが曲がっていないか?
 ・ステップはたれていないか?
 ・アクセルはジャリジャリしていないか?
 ・グリップははしっこがめくれていないか?
 ・レバーが曲がったまま乗っていないか? 
 ・後ろブレーキペダルは反り返っていないか?

の方が大切なセッティングで、サスペンションやエンジンのセッティングなんて、体育会系風にいうと「10年早えぇんだよ!」です。

 千種君は今年から少しずつですがセッティングを自分好みに変更するようにしました。それは私がいう<あるレベルまで>をテクニックの方が完全に超えたからです。自分もそれに気づいたみたいです。

<出荷時のまま乗るのが初心者にはとりあえず、一番良いのか?>
<調整するには一番緩めた状態から少しずつ固くしていくのが良いのか>

 そうですスタンダードのまま乗って下さい。でも前後のサスペンションのアジャスターネジというか、そういう内蔵のセッティングネジはすべて全ユルに戻して乗って下さい。今の日本の寒さなら、それがベストです。

<前と後ろのどちらを先に調整するのか>

 健一選手は後ろを調整して乗ってみて、前を調整してまた乗ってみて、また後ろを調整してを繰り返してセッティングしていますよ。

<調整の具合はステアなどを越えた具合で判断するのか>

 セッティングはステア用とかターン用というのはありませんから、セッティングの時にあらゆる地形を走って決めますので、その場その場の地形でセッティングを大幅に変えることはありません。でも、例えば今の時期だと、寒い日もあれば暖かい日もありますからその時は少しだけ、ノッチ数でいうと2〜3ノッチ動かしてセットしなおしています。その違いは、あなたには絶対負けない過去に輝かしい経歴のある私お父さんにでも分からないくらいの変更です。だから民間人はいじっても分からないということですね。

 多分アンタって、乗り方を見ると「一生慣らし運転」の乗り方じゃないの?前後のサスペンションの動きが悪い、エンジンの吹き上がりが悪いとしたら、それはアンタの乗り方の問題です。そう、エンジンが壊れるくらいサスペンションが折れるくらいに乗ってごらん、すべてが快調に動き始めてとてもよくなるって。

生まれたままがよい、いじるとサタンにつけ込まれる(テモテ第1:3-2)


Re: 前後のサスペンション... 井上@宇都宮 - 2002/01/26

”10年早いんだよ、出直して来な!”の一言で終わりかと内心ビクビクしていましたが、お忙しいところを親切に大変分かりやすく教えて頂きましてありがとうございました。できれば10年先にこのQ&Aのお答えを噛み締められるようになりたいと思います。更に10年早い質問と怒られるかもしれませんが、もう一つ教えて下さい。

自分は勘違いしているのかもしれませんが、”出荷時のまま乗る”=”スタンダードのまま乗る”とうのは兎に角何もいじらないで乗ることかと考えていましたが、これは実は部品やフォークオイルを変えないで乗るという意味で、サスペンションのアジャスターをいじらないで乗るという意味ではないのですね。cotaは前後にpreload adjusterとrebound adjusterというのがありますが、これは全ユルにするという意味で宜しいのでしょうか。また”今の日本の寒さなら、それがベストです。”すみません、素人にはこの言葉の意味がわかりませんでした。温度によってサスペンションの状態が変わるのですか?


Re: 前後のサスペンション... 黒山一郎 - 2002/01/28(Mon)

 トライアルを何も知らない人が読んでもわかりやすくをモットーに書いていますが、こう言うことを指摘されるとひたすら黙って下を向くしかありません。申し訳ばなか・・ですたい。

”出荷時のまま乗る”=”スタンダードのまま乗る”とうのはとにかく何もいじらないで乗ることかと考えていましたが、これは実は部品やフォークオイルを変えないで乗るという意味で、サスペンションのアジャスターをいじらないで乗るという意味ではないのですね。

 そうです、でも部品やオイルは壊れたり古くなったら交換はしてくださいね。アジャスターはシロウトの人にはいじってもその変化はわかりにくいですから、すべてゆるめて乗って下さいということ。アジャスターの意味は後で説明します。

preload adjusterとrebound adjusterの意味は、preload adjusterが「沈み込み調整ネジ」でrebound adjusteが「伸び(戻り)調整ネジ」の意味です。

 前と後ろのサスペンションは見れば分かりますが「丈夫なスプリング」がついていて、それでデコボコの地面をビョヨ〜ンビョヨ〜ンと伸びたり縮んだりしてショックを吸収しています。でもこのスプリングはスプリングだけだと「びっくり箱のスプリング」みたいにビョヨ〜ンとなっただけでフラフラします。それに抵抗を与えて安定させているのが中に入っているダンパーなのです。スプリングは飛び跳ねる散歩中の犬、ダンパーはそれを引き留めるロープ(専門用語でリード)と考えてもいいと思います。

 ダンパーの中にはオイルが入っていて、そのオイルを狭い空間に閉じこめて小さな穴を通過させる事で抵抗を得ています。注射器で水を吸い、注射針をつけずにポンプを押すと勢いよく水は飛び出すけど、針をつけてやると穴が小さいから力一杯押してもなかなか少ししか水は出てきません。これと同じ原理です。
 水は温度変化により氷(個体)水(液体)水蒸気(気体)に3変化します。でも、同じ水(液体)だとその範囲の温度変化では粘度は変化しません。しかし、前後サスペンションの中に入っているオイルは外気温によって同じ液体の状態でも粘度(ねっちよりかサラサラ)が変化するのです。だから同じサスペンションなのに、夏はビョヨ〜ンと動くのに冬は餅がついているみたいにネッチョリとしか動かないというわけ。で、この対策として誰でもすぐにいじれる外部アジャスターがついているというわけなのです。

 アジャスターというものの構造は分かりやすくいうと、オイルの通過する小さな穴の中心に爪楊枝みたいな先のとんがったやつを上下させる仕組みになっています。

1) スプリングがビョヨ〜ンビョヨ〜ンとならないように、スプリングに連動させてオイル入りのダンパーがついています。

2) この中のオイルは小さな穴を通過することで動きを制限しています。その制限されたもどかしさがダンパーなのですが、穴を大きくすればスコスコだし、小さくすればネッチョリは誰でも分かります。

3) で、その穴の大きさを外から変えられればいいわけでして、穴の真上に爪楊枝みたいな先のとんがった細い棒があって、それを外部のアジャスターを回すことによって、爪楊枝が上下する構造です。

4) 爪楊枝を深く差込と穴は小さくなり、引き上げると大きくなります。ですから、夏はオイルが柔らかくなりビョヨ〜ンとなりますからアジャスターを閉める/穴を小さくする、冬はオイルがネッチョリになりますからアジャスターを開ける/穴を大きくするです。

5) 言葉のあや表現方法の違いですが「全ユル」という言葉は、アジャスターを一杯にユルめることを言いますね。

 専門的に言うと、爪楊枝の先みたいに左右が対称に勾配がついているものを「テーパー(対称傾斜)」といい、片方だけの勾配は「片傾斜」といいます。だから家の屋根はテーパーのやつもあるけど、下り道はすべて傾斜なの。

初心者ほど扱いやすいものはない(営業マン心得1章1)


Re: 前後のサスペンション... 井上@宇都宮 - 2002/01/28(Mon)

まるで眼前の濃霧が一瞬にして秋の雲ひとつない青空に変化したかのようです。素晴らしい解説ありがとうございました。市販のメカニック辞典なんかを読んでも、バイク屋さんに聞いてもさっぱりわからないことが、素人にも分かりやすい例えで非常によくわかりました。どうもありがとうございました。これからもこの掲示板を楽しみにしています。今後も宜しくお願いします。