<Q> クラッチのメンテナンスについて

数ヶ月前にクラッチのキレが悪いのでクラッチハウジングを取り外し、段差の修正を
しました。その後、クラッチのキレは良くなったのですが、逆にクラッチが滑るような感じになってしまいました。
偉大なるバイブル「過去のQ&A」を読み返しますと、クラッチセンターのナットは「トルク7キロで締め付けている」との記載がありますが、センターの締め付けトルクが足りない場合は「クラッチが滑る」等の症状が出るのでしょうか?

また、クラッチ板、フリクション板の摩耗限度等の目安はありますでしょうか?(おそらく健一選手ぐらいのレベルですと、毎回大会毎に交換しているとは思うので期待する回答はいただけないのかも知れませんが・・・。
私のような民間人レベルに参考になる程度の回答で構いませんので、宜しくお願いします。)

<A>

 まず、肝心な自己紹介が抜けています。それは「あんたのバイクって何年型なの?」ですね。小児科と老人医療では、同じ病気でも全然治療内容が違うように、BetaMotorのバイクも年式によって対処方法が全然違います。

 黒山選手は16歳で世界選手権に初挑戦しました。この時は「ガラ」でした。その後「テクノ」になって「Rev-3」です。自転車からトライアルに転向して今日まで一貫してBetaMotorのバイク以外は乗ったことがありません。

 世界中で、BetaMotorのバイクのことについては、一番はBetaMotorの工場長のボジ.リカルド、2番はミラノにあるDonato Miglioさんの工場にいるミリオ/ルーカ/イーバンの3人、3番はここという自負があります。

 でも、症状だけ教えてもらってもお答えのしようがありません。でもでも、何とかお答えしますと
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* 「トルク7キロで締め付けている」との記載がありますが、センターの締め付けトルクが足りない場合は「クラッチが滑る」等の症状が出るのでしょうか?
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 この部分の22ミリのナットは、締めつけすぎるとクラッチ系のすべての動きが渋くなるし、クラッチセンターとクラッチハウジングの間に入れてあるワッシャが偏摩耗してきます。逆に甘く締めるとゆるみます。ここに付いているゆるみ止めワッシャは効果がないものと考えた方がよろしい。

 元国際A級の泉裕朗選手が、全日本猪名川サーキット大会の時にこのネットがゆるんで沢の上の方で往生していた記憶があります。ですから、ここのナットは正しく7キロで締めてくださいね。ついでにトルクレンチを必要とする部分は

→ '02年までのRev-3のフライホイルは14キロ
→ '03年以降は13キロで
→ スイングアームのシャフトは6キロ
→ 左右クランクケースの合わせボルトは1.3キロ 

です。これ以外のボルトナットは、すべて経験と度胸と感で締めつけます。

 レーサーというものは、ばらすために組むのが大前提でして、安全をもって締めつけすぎると、ゆるめたり締めたりを繰り返しているうちに、すべてのボルトナットの部分が金属疲労しますから、適正に締めつけるのが一番いいわけで、こればっかりは本を読んでも人に聞いてもどうにもならず、学歴出身身分国籍金持ち貧乏身長体重に関係なく「経験→破壊失敗→成功」を繰り返し体で覚えるしか方法はないですね。

 「考えんでいい、体で覚えんかい!」の言葉を送ります。

 私の実姉は正看護婦の免許を持ち、整形外科と外科を専門に30年の手術付添い専門をやっていましたが、いつも言っていたことは「外科や内科は3人殺さないと(失敗しないと)本物の医者にはなれん」でして、メカニックも3回はエンジンを壊さないと本物にはなれないですね。

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*また、クラッチ板、フリクション板の摩耗限度等の目安はありますでしょうか? (おそらく健一選手ぐらいのレベルですと、毎回大会毎に交換しているとは思うので期待する回答はいただけないのかも知れませんが・・・。私のような民間人レベルに参考になる程度の回答で構いませんので、宜しくお願いします。)
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 黒山選手は試合ごとには交換しません。

月曜/休み
火曜/練習 (中程度3時間)
水曜/練習 (軽く流す2時間)
木曜/練習 (強く5時間)
金曜/休み
土曜/練習 (中程度3時間)
日曜/練習 (強く5時間)

※ 時間は短いですが、一人で乗りっぱなしですから、単純に言うと2人で乗るなら倍の時間になります。

 を繰り返しています。ですから、クラッチをいつ交換するというのは、黒山選手が「クラッチのつながりが甘くなった」と言えば交換するし、言わない限りはいじりません。それと、本題にはないのですが、クラッチの滑りやつながりの悪さは、クラッチそのものを上下から押さえている「クラッチセンターとクラッチプレッシャープレートと6本のスプリング」にも原因がありますが、この話は今回は無視します。

 でもこれだけやっていると、そろそろクラッチを交換した方がいい頃やなあというのは分かってきます。クラッチを交換する時は

・クラッチフリクション板(コルク板)×6枚
・クラッチ鉄板×5枚

 を全部交換します。クラッチフリクション板だけということはありません。

 クラッチの交換の基準はただひとつ「つながりが甘くなるか、滑り始める」と交換してください。でも、いち民間人の皆様にはこれは分からないと思います。2速や3速で滑らなくても、二郎君が乗って6速に入れて全開急加速すると滑っているパターンが数多くありました。

 また経験上、マイクロゲージでクラッチフリクション板やクラッチ鉄板の厚さを測定して減り具合をみようとしても無駄です。新品と古いのの差はそうはないのです。たとえ明らかに減っていても、減っているから滑るわけではなくて、ようするに極端にいうと「表面がツルツルに磨き上げられた」から滑ってくるのです。これは特にクラッチ鉄板の方に顕著ですね。

 それともうひとつは「古いタイプだけどそうは乗っていないからクラッチは大丈夫」「月に2回くらいしか乗らないからクラッチは減っていない」ではないのです。

 タイヤは「古いタイプだけど新品だから大丈夫」ではないですよね。新品でも5年前のトライアルタイヤは大気中の水分や窒素を取り込み硬く硬化して使えないのと同じで、クラッチフリクション板はオイルにドップリと浸かっている新品の状態と、パーツセンターに乾燥して保管している状態では全然状況が違っていて、分かり易く表現は間違っているかもしれませんが「オイルに浸かっているクラッチフリクション板は、ふやけている」です。

 メーカーの人はそんなことはないと言うでしょうが、それは誤っています。ミッション室にオイルまみれになったクラッチフリクション(コルク)板は、使っている時は問題ないのですが、1月も使わずにオイルに浸かった状態で使わない状態と、黒山選手は全然違うと言います。

 乾式クラッチの自動車と、常にオイルに浸かっている湿式クラッチのバイクとは違います。当然、ミッション室に入れるオイルも違います。

 だから、皆さんも体感しているように「年に何回も乗らないからクラッチは減っていないはずなのに、心配だからクラッチフリクション(コルク)板だけ新品交換してみたら、つながりが全然違う」になるのです。

 結論として、乗る乗らないにかかわらず「半年に一回はクラッチフリクション(コルク)板だけでも交換する」がよろしいかと思いますね。