<Q> スイングアームにクラックがはいりました。

02rev3に乗っています。
先日、スイングアームのアクスルシャフトが通る、薄い部分に小さなクラックが入っているのを見つけました。溶接した方がいいと思うのですが、溶接したせいで余計に強度が落ちてしまうということはないでしょうか?
よろしくお願いします。

<A>

 その部分は、今現在のタイプは改良されてまったくクラックは入らないようになっています。ですが、残念ながら'02年までのタイプのスイングアームは、その部分に、左右ともクラックが入ってきます。

 その部分のクラックは、溶接して補強してやらないとローン地獄に落ちるのと同じく、ドンドン進行して最後にはどうなるかは想像したくありませんね。

 今はやりのテレビ番組の「そのまま放っておくと、とんでもない事になりますよ!」の言葉を送ります。

 その部分は、そのクラックの入った部分を上からアルゴン溶接したらすむとお思いでしょうし、経験のない溶接人はそうします。事実、そうしているスイングアームをたくさん見ました。でも、それでは、その溶接した上からまた同じようにヒビが入ってきます。

 正しい修理方法は以下の通り。

1. クラックの上から溶接して完全にひび割れの部分を埋めてしまう。これを「共付けをする」と言います。

2. スイングアームと同じ材料のアルミ板か、アルミフレームの自転車のアルミ材料で、その上から「当てパッチ板」を作って、上からカバーをかぶせるように溶接する。

3. 今のスイングアームは何故この部分にクラックが入らないのかというと、この部分の曲線の形が違うのです。分かり易く言うと、クラックの入るのは「角張っていて」ヒビの入らないのは「曲線を描いている」のです。

4. ですから、その当てパッチも「曲線を描いている」のような形にして上から溶接補強してやります。

5. 当然、溶接棒もそのスイングアームを溶接したのと同じ溶接棒を使えばベストですが、溶接棒品番が同じものが日本製でありますから、日本でも手に入ります。

6. イタリアのボローニャにあるBetaのスイングアームを作っている工場に行きまして、そのスイングアームを溶接している溶接棒を見てみますと「ALMG5ー5356」の刻印が打ち込んでありました。日本でも「5356」の番号のアルミ溶接棒は手に入ります。

7. で、アルゴン溶接機を持っているどこかのショップで、その部分を溶接してもらう場合の注意事項は以下の通り。

a. その溶接機が300アンペアはあるのかどうか?
→ だいたい、溶接というものは「高い電流で一気にやってしまう」ものと考えてもらってかまいません。ですから、スイングアームを溶接する時に150アンペアで溶接するとして、マキシマムが180アンペアの溶接機では限界ギリギリの能力で溶接しているのです。これは180キロ出る車で150キロ出しているのと同じ事です。

b. その溶接機が水冷であるのかどうか?
→ バイクに水冷と空冷があるように、溶接機も水冷と空冷とがあります。また、今の軍隊の機関銃にも水冷と空冷があります。どちらがいいのかは、皆さん経験があるように熱を発生する道具は圧倒的に「水冷」が余裕勝ちです。
 同じ腕前だと、空冷溶接機でしか溶接したことのない人が水冷溶接機で溶接すると「俺はこんなに溶接が上手だったのか」と感激するくらいの差があります。

c. 当てパッチが「A7N01系」の材料を使うか、いらなくなったアルミスイングアームやアルミ自転車のどこかを切り取って使っているかどうか?
→ 当てパッチのアルミ材料は何でもいいわけではありません。溶接をすると、材料のアルミ材は強度が落ちます。で、その落ちた強度が時間が経つと「弱いそのままなのか」「強度が回復するのか」が問題で、A7N01系の材料は、1週間で実用強度の80パーセントまで回復します。100パーセントの回復には1ヶ月必要です。

d. アルミ溶接棒に「5356」を使っているかどうか?
→ いくら当てパッチにA7N01系の材料を使っても、肝心要の溶接をするその溶接棒が「単なる素アルミ溶接棒」ではお話しになりません。必ず5356系を使っているかどうかが問題です。溶接棒自身か、溶接棒の入った箱に必ず品番が書いてあります。

e. 溶接する人の腕前はどうか?
→ 一番最後に一番大切なことは、その溶接をする人の「腕前」です。「溶接が出来る」のと「溶接がうまい」のは別物です。技能オリンピック溶接部門に出場を目指すのなら、溶接の素質は必要です。でも、私達のレベルの溶接内容では、素質があるないにかかわらず「数多くやったもん勝ち」が正しいのです。だから、そのやってくれる人が「溶接を時々している」人か「溶接ばっかりやっている」人かを見極めましょ
う。

f. 「俺は溶接がへただから外見はきれいにビード(ウロコのこと)が出せないけど、中までしっかりと溶け込まして溶接しているから大丈夫」という人がいたら、それはホントかウソか?

→ 「美しい溶接は強くて、美しくない溶接は弱い」のです。今は段々となくなってきたけど、鉄橋はどんな形の鉄橋でも美しいものです。何故美しいのでしょうか?それは、力学的に強くて強度が出ているからです。鉄橋でなくても、石の橋であれ木の橋であれ「橋は皆いちように美しい」のです。「美しいものは強い」ことを知っておいてくださいね。

 何でもそうですが、丁寧に丁寧に仕事して最後に完成品を見たら、それは美しくないとおかしいのです。溶接も同じ事です。

 ランプキンの絶頂期の走りを見て。イギリス人は盛んに「ビューティフル(きれい美しい)!」「ビューティフル!」と叫んでいました。走りもまた「美しい走りは強い」のです。でもでも、藤波選手の走りは全然美しくないけど、世界チャンピオンになっちゃって結果がすべてだから「藤波選手の走りは美しい」ですね。

 不景気な今の世の中、なけなしのお金をはたいて買ったその愛車'02年Rev-3号。どこの部分を修理溶接してもらうにしても、しっかりと修繕をする人の「腕前と道具」を見極める目を持つことが大切ですね。

 もうひとつ大切な言葉「いい仕事をしてもらうのならケチらないこと」も送っておきます。

 ものを買う場合、同じ商品なら「安く買った」方が徳です。だから皆さん、スーパーのちらしを必死で見たり、商品を買う時に「値切りまくる」のです。高かろうが安かろうが、商品は同じものが買えます。

 でも、技術は値切ってはダメですよ。技術は目には見えません。技術を値切ってやってもらっても、目には見えない部分で必ずどこか手を抜いています。うちの近くにTOOL BOX(ツールボックス)という青山さんのやっているトライアルショップがあります。このお店の仕事工賃はけっこういい値段を取るうえに、仕事が遅いのです。でも、お客さんはいっこうに減りません。

 青山さんが常々言うように「安い値段で仕事をする気にならん」でして、青山さんにしてみると「普通の値段で普通の仕事」をしているつもりですが、それが普通でなくなってきている時代なのです。安売り安売りの時代ですが、それは商品の売り買いだけの世界の話しで、技術に安売りはないことを知って下さいね。

 もしそれをやってくれるショップがあれば、それは必ずどこかで手を抜いています。正当なお金を出して、時間をかけてやってもらう。それが王道です。