| YAHAMA SY250F ワークスマシン '07年はパイオリ38径で、'08年はマルゾッキ40径です。
<いまどきのフロントフォークオイルのこと> (それぞれに方法論が違います) 整備の方法や、エンジンや前後サスペンションのセッティングというものは、人それぞれによって違いますし、また、それが当たり前ですね。 例えばタイヤ交換の方法だけをとってみても、ワークスミシュランとワークスダンロップでは違いますし、いまだに破られていない'03年トライアルタイヤ交換前後で27.8秒の記録を持つ、全米チャンピオンのロン.コモさんという人の交換手順は、ミシュランともダンロップとも違います ロードレースなんかのタイヤ交換は、タイヤ交換でなくてホイル交換です。ロンさんが言うには交換競技は「純粋にタイヤ交換のみを競う/前後共に一発目タイヤの耳を外すときだけレバーを使い、あとはすべて手と足ではずし入れする/前はビードストッパーはなし/左右耳が出た時点で終了」だそうで、本人も競技とサービスでやる交換方法は違うと申していました。 全米チャンピオンと言っても、トライアルバイクインポーター大会だからBeta.Gas-Gas.シェルコ.Montesa.スコルパの5社の戦いです。ようは、どのインポーターのメカニックが一番早いか大会ですね。ちなみにロンさんは、Betaのインポーターです。何にでもその事で一番だったら「それは全米チャンピオンだ!」の国民性は面白いですね。 ロンさんは東部ボストンの出身でして、西部にあこがれ常にポケットにはナイフを忍ばせ(警察用語で飲むと言う)、キヤンピングカーにはライフル銃と拳銃があります。アメリカ大会の何かの時に、お父さんはカッターで何かを削っていました。日本人特有のきめ細かさでねちねちやっていたらロンさんに見つかり、「ヘーイ、クロヤマ、チェンジプリーズ」と言い、やにわにポケットからナイフを取り出し強引にその何かを削り取りました。これも国民性で面白いですね。 まあ、結果オーライの世界ですから、仕上がりや出来が良かったら、そこにいたるまでの手順方法はどうでもいいのかもしれません。 2st混合オイルは、硬さ粘度というものはなくてどこのメーカーも一種類だけです。でも、4stエンジンオイルやフロントフォークのオイルは、粘度種類がたくさんあって、個人の好みや季節の外気温で変更交換出来るようになっています。 多くの民間人皆様は、春秋夏冬によってそれぞれのオイル硬さを変更していると思いますが、実はワークス黒山チームは、これが年中同じでエンジンオイルもフロントフォークオイルも、ついでにいうとリアクッションオイルも、すべてこれ同じ粘度のオイルしか使っていないのです。 始めに書いた通り、セッティングやオイルの選択方法はひとそれぞれによって違って当たり前ですので、黒山チームのやり方が正しいとは言いませんが、黒山チームはこうやっていますよレベルの話で聞いてやって下さい。 「黒山チームはこうやっていますよ」ですが、これのベーシックな部分は「11年間在籍したイタリアBetaMotorのやり方です」という方が正しいかもしれませんね。パイオリ社もマルゾッキ社もBetaMotor社もメイド.イン.イタリアですので、現地のやり方が一番いいとも言えます。 始めに書いたタイヤ交換の手順なんて、黒山チームのやり方はお父さんが始めて教えてもらったスズキワークスの方法を今でもやっていますし、それを伝授した二郎君も、スズキワークスの方法でタイヤ交換をしています。 お父さんのトライアルのスタートはスズキでして、イの一番にスズキのタイヤ交換の方法を知って、その後にダンロップと契約してダンロップのタイヤ交換方法を見て「あっ、そういう交換手順もあるんだ」と知った次第。 鳥と同じで、人間というものにも「刷り込み」という習性があって、一番最初に見た教えてもらったのを、いつまでもやるのかもしれませんね。 (昔と今のフロントフォーク) 今回はまず、フロントフォークオイルの事についてのウンチクに限ります。 昔のフロントフォークは、オイル粘度番数で冬場夏場と動き渋さを調整していました。その大きな理由は「動き渋さ調整アジャスター」がなかった事です。 ですから単純に、夏場は硬いオイル、冬場はやわらかいオイルを使い、春秋はその中間の硬さのオイル粘度で、上下する動き渋さを調整していたというわけ。 そして、昔のフロントフォークは左右共に内部構造はまったく同じ構造でした。ということは、ひとつの片側フロントフォークで沈みも伸びもセッティングを出し、そして、それを両方で同時にする仕事です。だから、言えばすごくシンプル単純な構造ですね。 ということは、内部の構造で動きをコントロールする能力が劣っていたからこそ、入れるオイルの硬さやわらかさで、その能力を補っていたわけ。 ですが今のフロントフォークは、パイオリ製38φも、ショウワ製39φも、マルゾッキ製40φも、昔とは内部構造が全然違います。
パイオリ製38φは右側にはスプリングが入っていなくて、上下動きをコントロールするダンパー構造だけです。反対の左側は、ばらしてみると分かりますが見事にスプリングだけのシンプル構造。 マルゾッキ製40φは左右共に同じスプリングが入っていますが、右側は伸びだけをコントロールする構造で、左側は沈みだけをコントロールする構造です。そして、伸び側の右側の内部にあるカートリッジは完全オイル密閉式で、組み立てる時はまず、カートリッジにオイルを入れて密閉し、その後にそのカートリッジをフロントフォークの中に入れてから、また、オイルを追加して入れるという手間のかかる方式です。 昔と今のフロントフォークの違いの一番は、内部構造の違いもさることながら、フロントフォークの外部に上下動きの渋さというかダンパー効果を調整出来るネジがついている事です。このネジをアジャスターと言います。そしてそのアジャスターは、ネジを締めたりゆるめたりして動きの渋さを調整するわけですが、これが民間人皆様でも体感出来る程性能がよろしいのです。 (シャフトとロッドのお話し) 例えば丸い穴の中央部に、鉛筆を削った先っぽを位置させ、この鉛筆を上下させると穴の外周のすき間面積は、多くなったり少なくなったりしますよね。この原理を利用したのがアジャスター(動き渋さ調整)です。 どのフロントフォークであれ、上にあるキャップの中央部にマイナスドライバーで回せるネジがついています。そして、上のキャップをとってみれば分かりますが、このマイナスネジの先には細長いロッドがついていて、その先っぽは鉛筆を削った先っぽとまったく同じ形をしています。 マイナスネジを回すことにより、ロッドが穴の中央部を上下して穴の外周面積を変化させます。そしてフロントフォークを上下させることにより、この穴のすき間を強制的にオイルを通過させて、大きなすき間の時はスコスコ、小さなすき間の時はジワ〜っていう感じの動きをさせるのです。 蛇足ですが、回転して仕事をする細長い棒の事をシャフトといい、往復して仕事をする棒の事をロッドと言います。自動車の前にあるエンジンの力を、後ろのタイヤに伝える役目をするのは回転するからプロペラシャフトといい、クランク軸もクランクシャフトといいますよね。 リアクッションの上下するのメッキ鉄棒はセンターロッドと言いますし、今はもうなくなったけど、蒸気機関車の動輪に伝え往復する主連棒はコネクチングロッドといい、それを他の数多い動輪につないでいる連結棒のことはカップリングロッドと言います。 だったら、フロントフォークの上下するインナーチューブはロッドと呼ばないのか、と言われればそうなんですけど、これは知識がないので分かりません。「インナーチューブはインナーチューブと言います」で、知らぬ存ぜず押し通します。でも、単純に回転するものはシャフト、往復するものはロッドと覚えていて、だいたい間違いござんせん。 (オイルの話) この性能のいいアジャスター付きのフロントフォークになりましてからは、内部に入れるオイルは、北海道礼文島と沖縄与那国島のようによほどの外気温の違い以外は、一年中同じ粘度番数のを使う方がいいじゃないかというのが黒山チームの考え方です。というよりも、始めに書いた通りBetaMotorの考え方です。 Beta/Rev-3やスコルパ'07年までのパイオリ製38径フロントフォークのセッティングの基本は、冬場に合わせたやわらかいオイル粘度を使い、アジャスターネジは全ユルがセッティングのスタートラインです。 そして、ここから上下動きセッティングはアジャスターネジを締め込む事により調整し、体重差による沈み込み底付き感「ガツン!感」をなくす時は、スプリング側の油面を10ミリまでの範囲で高くする事で調整しています。 沈み込み底付き感ガツン!をなくす為に、スプリング押さえつけ締め込みアジャスターでやりスプリングの強さを強くすると、初期作動を含めたすべての動きがかたく感じられますので、これも初期作動を第一に考えて全ユルをスタートとし、締めたり戻したりして、スプリングの長さを決めます。 黒山選手の場合、パイオリ38径の時は
でした。 当初はスプリング側は粘度10番や15番でテストしていましたが、冬場の動きを重視して5番に落ちつきました。2.5番だと戻りの反発が早すぎて振られるそう。反対にダンパー側に5番以上の硬いオイルを入れると、いいところにくるとアジャスター1ノッチですごく渋さが変わってしまい、1.5ノッチ付近が必要となり、そんなノッチ位置がないから使えないそう。 分かりやすく極端に言うと、スプリング側の穴すき間は大きく作られており、シャブシャブの水のようなやわらかいオイルだとダンパー効果が得られず、大きな穴の中を通過するオイルは少しネッチョリ目がいいようです。 反対に、ダンパー側の穴すき間は小さく作られており、ネッチョリ目を入れると無理矢理通過しようとする力が強すぎて、少しの穴の面積の違いで、つまりアジャスター1ノッチの違いで性能がガラッと変化してしまうという事で、少しの穴の面積の変化ぐらいには、敏感でないシャブシャブの水のようなやわらかいオイルがいいという次第。 (同じオイルを年中使う理由の解説1) 年中、同じオイルを使う理由はたったひとつ「オイル粘度番数を変えると性能が変わってしまう」ですね。 成田選手がBetaMotorのワークス時代のお話しです。成田選手は、というよりも黒山選手もそうですが、ダンパー側のアジャスターネジをセクションや外気温やオイルの温度変化により、常に持っているマイナスドライバーで締めたりゆるめたりして調整しています。 アジャスターのないフロントフォークで戦っていたお父さんとしては、基準というものが知りたくて「どこは何ノッチ、どこそこは何ノッチとか締め込み回転数で合わせているんですか」という質問を成田選手にしました。 「何ノッチとかいうのではなくて、その時その場のフロントフォークの動きで調整しているから、何ノッチなんて関係ないし、同じノッチでも温度差で動きが違う」「だから、体で覚えているフロントフォークの動きを、常に同じにさせる為にアジャスターで調整している」 「それだったら、オイルの硬さを変えられたら、匠君が覚えているフロントフォークの動きと、どのくらいアジャスターを動かすと渋さ動きが変わるという感覚が分からなくなるんとちがうの」 「そう、だからBetaMotorのメカはオイルの粘度番数を、こっちから言わない限りは絶対に変えないし、年中同じ」 ズバリ、BetaMotorの世界選手権を追いかける巨大なカミオンには、フロントフォークオイルは、粘度番数がダンパー用とスプリング用の2種類のオイルしか積んでいません。夏の暑いアンドラの大会も、寒い北アイルランドの大会もまったく同じ粘度番数のオイルを使います。 今の優秀なフロントフォークのアジャスターは、季節が変わり外気温が上がってくると、アジャスターを締め込む、つまり全締めと全ユルの範囲内だけで、夏も冬も春秋も同じ粘度番数のオイルで調整可能の範囲に収まっていますし、最初からそうセッティングしてあります。 (同じオイルを年中使う理由の解説2) 例えば成田選手や黒山選手のように、2.5番でアジャスターネジをどのくらい締めた時に、どのくらいの上下動き渋さに変わるという事を覚えているとします。 ところが、これを10番とかに変更すると、せっかく2.5番で覚えた感覚がまったく役にたたなくなります。季節の変わり目に、オイルの粘度番数を変えてみたら、まったく別物の動きになってしまった経験をお持ちの方は多いと思います。 それと、フロントフォークもリアクッションも、その構造上、初期は柔らかくて沈み込めば沈む程、踏ん張り反発が出るように設計してあります。 沈み込みのどのへんから、この踏ん張りが出て反発してくるという、体で覚えている感覚も、オイルの粘度番数を変えると違ってくるのです。 前タイヤを浮かす場合、一度、フロントフォークを沈めて伸びてくるタイミングに合わせてハンドルを引っぱりますよね。オイルの粘度硬さを違うのに変更すると、このタイミングが狂うと黒山選手はいやがります。 同じオイルで、アジャスターを締め込み動きを渋くした場合は、上下動きの渋さは変わっても、この反発してくる位置タイミングは変わらないと言います。 という事で、黒山選手はBeta時代のパイオリ38φの時は、年中以下の番数でしたので、民間人多くの皆様も同じでいいと思います。先に書いている通り、ダンパー側2.5番、スプリング側5番ですね。 以前は、スプリング側のみ10番とかを使っていた時期がありましたが、冬場でもより動きのいいセッティングを必要とするライディングに変わっていき、5番がベストのようです。 蛇足までに、ほぼ左右同じ構造の現在使っているマルゾッキ40径フロントフォークは、左右同じ構造だから、当然、左右共に同じ年度番数を黒山選手は使っています。 (反論) 年中「フロントフォークのオイルは同じでいいです」に反論はあるでしょう。それはそれでよろしいです。いじくり回す楽しみの人には、この話はなかった事にして下さいね。 バイク→機械をいじくるのは、とても楽しいものです。そして、いじる事によって、それがいい方向に行く悪い方向に行く、という事を知るのもトライアルの楽しみのひとつでもあります。いい方向に行く悪い方向に行く、というのが分からなくても、単純に「変わった」という事が分かれば、それはすごい進歩なのです。 ということで、戦う超最先端の方法論を、月に3回乗れればいい方のお楽しみいじくり専門民間人皆様に押し付けるのはいかがなものかとも思います。 今のフロントフォークのオイルは、黒山選手は年中同じ粘度番数で乗っていますよ、というのが今回の結論。それを押し付けませんが、セッティングに悩んだら、一度、お試しあれぇぇ・・・・・・ フロントフォークオイルというのは、2st4stエンジンオイルと違い「高回転による摩耗破損性」がそうはありません。だから、大きな会社小さな会社と問わず、たくさんのオイルメーカーが雨後のタケノコよろしく、たくさんの種類のフロントフォークオイルを販売しています。 民間人皆様はやっぱり値段をまず最初に考えますが、詐欺的商法の場合を除いてごく普通の販売店では、当たり前ですが何事においても「基本的には品質.性能は、値段相応と思って下さい」の言葉が当てはまります。 フロントフォークオイルの場合、同じ番数の粘度であっても、メーカーの自社基準による番数粘度ですので、これまた同じではありません。この事を頭に入れて、値段だけ粘度番数だけでオイル選びをなさらぬようにアドバイスします。 ではでは、イチロお父さんより |