<前略 黒山健一選手を応援してくださるすべての皆様へ>

'11年トライアル世界選手権日本大会もてぎ2日制、終了しました。結果は以下の通りです。

●8月20日(土)一日目

1位 トニー.ボウ (スペイン) Montesa 31点
2位 アダム.ラガ (スペイン) Gas-Gas 32点
3位 藤波貴久 (日本) Montesa 64点
4位 ファジオ.ジェローニ (スペイン) OSSA 65点
5位 黒山健一 (日本) YAMAHA 73点

●8月21日(日)二日目

1位 アダム.ラガ (スペイン) Gas-Gas 41点
2位 藤波貴久 (日本) Montesa 51点
3位 トニー.ボウ (スペイン) Montesa 61点
4位 黒山健一 (日本) YAMAHA 75点
5位 ミッシェル.ブラウン (イギリス) Gas-Gas 83点

黒山選手が「ランキングトップ10には今後何年もなれるけど、もう目標の世界チャンピオンになれない」と、11年間続けたトライアル世界選手権フルエントリーを終了したのが今から5年前の事です。

幸いな事にトライアル世界選手権は日本大会が2日間制で行われますので、この日本大会だけは出場を続けておりまして、以下がその成績記録です。

'06年→5位と6位
'07年→9位と6位
'08年→6位と12位
'09年→9位と7位
'10年→5位と7位
'11年→5位と4位

'06年の5位と6位は、世界選手権を終了した次の年の成績でして、だいたいこのへんの位置が黒山選手の世界選手権フルエントリーの位置定番でした。'08年の二日目の12位は「怪我のせいにはしません」が、一日目にコースを走っていて前のライダーがはねた小石が、黒山選手の左目を直撃してほぼ片目のみで走った結果です。

●ヘタになるどころか、世界選手権フルエントリーしていた時の実力を維持している。

ヤマハ発動機(株)トライアル総監督の木村治男さんが申します。

  1. モトクロスのライダーで、アメリカにスーパークロスやヨーロッパに何年も走りにいって帰ってきた時は、それなりに向こうの実力をつけて走り方も上手くなって帰ってくる。
  2. でも、何年も日本で走っていると、元のもくあみで実力も日本人ライダーにあわせた走りに戻ってしまうのが普通。
  3. でも黒山選手の場合はヘタになるどころか、以前より明らかに上手くなっていて日本風に染まっていない。
  4. これは多分、日頃から以前に走っていたヨーロッパの世界選手権の走りを忘れないように「本人の意志も練習環境も」そういう努力をしているんだろうね。

これはまさに言い当てた言葉でして、その一つは「ヨーロッパのトップ連中はトライアル以外の、例えば自転車やウエイトトレーニングやの体力トレーニングをやっている」でして、黒山選手もトライアルの練習時間よりも多くの時間を他のトレーニングに当てている生活をしています。

日本人ライダーは「トライアルしかしない」の差です。ヨーロッパの連中がやっている以上の努力内容でないと、遠く離れた島国日本ではなかなか向上は難しいものがあります。


●黒山選手にとって日本大会の位置づけとは。

女子部を指導するとき、一人の場合はそうはいきませんが二人以上で練習するときは「自分より上手い人の技を見て盗め」です。女の場合「男のライディング」を見て盗もうとしても、体力筋力が根本的に違いますので無理。「見て盗む」はヘタが伸びる過程の常套手段ですね。

黒山選手にとって日本大会は「成績なんかどうでもいい」のです。年に一回だけヨーロッパから持ち込んでくるトップ達の「最新のテクニックやトライアルの方向性」を盗む大会なのですね。まさに黒船来襲で、黒船のすべてを盗み、同じものかそれ以上を作るです。

昨年の2日目、本当はそこまで6位だったんだけど、あるセクションのあるポイントを「ボウはどう走るのか」を見る為に、タイムオーバー覚悟で待ちボウの走りを見たもんだから、きっちりタイムオーバー減点を喰らって7位に落ちたのです。でも6位から7位に落ちても世界ランキングなんか関係ないし、それよりも何よりもボウの技を盗んだ利益の方が大きかったのです。


●今年のもてぎの目標は。

黒山選手にとって、今年の目標は「藤波選手に勝てはしないだろうけど、ひと太刀を浴びせる」です。つまり「減点数か順位」で、藤波選手に圧倒的な差をつけられないですね。

一日目とも二日目も藤波選手の二つ下の順位に位置しました。一日目の減点は藤波選手に「9点差」で、もう1ラップあればひっくりかえせる範囲内。二日目は順位をボウのすぐ後ろにつけ「14点差」でした。

過去の日本大会は「見て盗む」でしたが、今年は「勝負をしにいった」大会でもありました。

●世界のトップ達と日本のトップ達。

これはもう「真のプロフエッショナルは迫力が違う」の一言で終わりです。プロフエッショナルとは「請け負いで仕事をして成功報酬をもらう」です。黒山選手と野崎選手と小川選手は別として、他、日本人でトライアルで生活しているプロは誰もいません。プロとアマが同じ土俵で勝負するのがトライアルなんだけど、この差は歴然。

白バイに乗っていた時に「お前達はオートバイのプロなんだぞ」とよく言われていました。でも、白バイ隊員は「請け負いで仕事をして成功報酬をもらう」ではないですよね。この場合はプロフエッショナルでなくてスペシャリスト(専門職)の言い方が正しいのです。

ボウ、ラガ、藤波、ジェローニの4人は明らかに「勝ちにいく」走りをしています。他のヨーロッパの連中も「何とかクリーンで出る」攻めのライディングは迫力がありました。迫力というよりも「すごみ」の表現の方がいいかもしれませんね。

黒山選手も迫力とすごみの走りをしているんでしょうけど、いつも見ていますのでそうは思いませんが、久しぶりに他人(外人)がその走りをしているのを見ると感動です。「トライアルは遅乗り競技ではない」を、常々うちの女子部の皆に申していますが、まさに遅乗り競技ではない迫力あるトライアル世界選手権でした。

「いさぎよさ」をよしとする国民性の違いも明らか。麦と肉を食う狩猟民族と、米と魚を食う農耕民族との差は歴然。奴らは「いさぎよさ」はなく「そこからはもう無理やろ」という体勢になっても、そこからまだ何とかバイクを前へ進めようの姿勢は「国民性」でしか説明出来ません。

●サポートライダーの能力がより必要になった。

ライダーは金曜日にセクションの中に入って下見をしたら、土曜日曜大会当日はセクション内に入っての下見は出来ないシステムです。ようは大会中は、ライダーはバイクに乗ってでしかセクション内に入れません。

ですが、大会当日大会中にセクション内に入ることの出来る人がいます。それは、それぞれのライダーに一人だけついているサポートライダーです。名目は「失敗した時のお助け係り」ですが、実際のところは「短時間に少しだけセクションをいじれる」のです。

ライダーがセクションの入口で「入るぞ」の合図をオブザーバーに送ります。オブザーバーが「OK」を出すと、そのサポートが「お助けも入ります」の合図をして許可をもらいセクションの中に入ります。

この時に直接ステアケースなんかの上のお助けポイントに行かず、わざわざ走るラインを通過してお助けポイントに行きます。そのわずかな時間に「整地をしてしまう」必要が出てきたのがこのシステム。

こうなると、極端にいうと「お助けだけしか出来ない人」には「セクションをいじれない」ですよね。そして、サポートとして同じセクションをいじる人でも「元ライダーかライダーと同じ技量のサポート」が、抜群の能力を発揮するのです。

今回、ボウには「世界選手権で2勝」しているアモス.ビルバオがついていましたが、見ていて見事なセクションいじりを瞬間でしていましたね。これは「元世界ランカー」でないと無理。


●これからのトライアルの方向性。

なにはともあれ「観客動員数」を増やす事ですね。大相撲の力士が「給料を上げろ」と言いましても「屋根付きの屋内でやるスポーツ」には観客動員数に限りがあります。トライアル世界選手権、スペイン.フランス.イタリア大会の観客動員数はもの凄いものがあります。

また、参加ライダーを増やす為に、トップライダーの為だけの世界選手権にしないように、トップライダーにハンディをつけました。

  1. セクションのラインが出来上がってから走るトップライダーが有利である。
  2. ではトップライダーを先にスタートさせよう。
  3. セクションをいじらせない為に、走る前にセクションの下見をさせないようにしよう。

というシステムに変更になりましたが「上手いのは何をしても上手い」でして、何の効果もないのが現実。ブスは化粧をしてもブスですが、きれいどころは化粧をしなくてもきれいどころなのと同じです。

何でもそうですが「役割分担」というのがありまして、バイクを作る側、大会を主催する側、ライダーを育てる鍛える側、の3つで、ひとつの団体がこれ3つをすべてやる事は不可能です。

陸上の投てき競技は「やり投げ、ハンマー投げ、砲丸投げ」の3種類です。この3つ、日本での競技人口は多分少ないでしょうし、メジャーなスポーツではありません。でも、ハンマー投げだけ特別で「見る側に人気がある」のでして、これはひとえに室伏広治という世界に通用するスーパースターが一人いるおかげです。

「底辺裾野が広いから山は高くなる」と言いますが、ハンマー投げと同じく、多分そんなには競技人口が多くない女子サッカーですが、今、ものすごい人気です。これもひとえに、なでしこジャパンが世界の頂点に立ったからに他なりません。

team黒山レーシングには現在、頂点を目指す「男組」と、底辺を広げる「女組」に二つがありまして「ライダーを育てる鍛える側」として、今後ともに日本のトライアルの発展普及の方向性で進んでいきたいと考えています。

黒山一郎より